「イノセント・ボイス」(ネタバレあり)
「国際平和映画祭 Japan 2006 in別府」が、5月5日〜7日の3日間、別府ビーコンプラザで開催された。
ドキュメンタリーを中心に15作品の上映。日本では見る機会の少ない貴重な映画も多く上映された。
オフィシャルサイト http://www.gpff-beppu.jp/index.htm
私が、この映画祭に足を運んだのは初日の5日。
まず、会場で気になったのは観客の少なさだ。展示物もあると聞いていたので、オープニングセレモニーの1時間前に会場についたのだが、私の他に客は1人。セレモニーには200人くらいはいたと思うが、上映が始まると、千人ほど収容できるホールに50人程しか入らない。採算は合うのだろうか。人ごとなのだが、すこし心配してしまう。同時に、映画のセレクトが良いので勿体ない気がした。
もう少し、広報活動に力を注ぐべきだ。別府駅前の繁華街にも告知ポスターなどが見当たらないし、HPも親切だとは言えないつくりだ。勿体ない。
とは言え、運よく私は来る機会を得た。
日本人製作のドキュメンタリー2本と、海外作品2本、計4作品を見た。
【イノセント・ボイス】
製作会社:A Lawrence Bender Production
監 督:Luis Mandoki
公 開:2005年
受 賞:2005年シアトル国際映画祭 最優秀作品
:2005年ベルリン国際映画祭 クリスタルベア賞(最優秀作品・児童映画部門)
:2006年アカデミー賞正式出品作品(メキシコ代表)
http://www.innocent-voice.com/
ロサンゼルス在住の俳優オスカー・トレスが自身の体験を元に書いた脚本を、メキシコ人監督ルイス・マンドーキが映画化。
1980年、エルサルバドルでは、政府軍と反政府組織との激しい内戦状態にあった。首都までの最後の砦となった小さな村では、毎日のように激しい銃撃戦が。いつなんどき銃弾が家に飛び込んで来るか分からない日常、11歳の少年チャパは、母親と妹弟とともに精一杯生きていた。
道路に転がる死体、徴兵されて行く友人、学校での銃撃戦、近所に住む少女の死。戦争は激しさを増していく。
そのような状況でも、チャパをはじめ村の子供達は喜びを見つけ出すのだ。小川で友人たちとふざけあい、野原で紙風船を飛ばす。そして、恋もする。
しかし、チャパと彼の家族が最も恐れていた日、チャパの12歳の誕生日が来てしまった。12歳をむかえた少年は、政府軍に徴兵されるのだ。チャパは仲間とともにゲリラ軍のもとに逃げ込むが。。。
この映画は、戦争映画としては、何のことは無い「普通」のできごとが描かれているだけなのかもしれない。戦争は殺し合いだ。死体が転がるのも、友人が死ぬのも、特に変わったできごとではない。ドラマチックなことなど起きない。しかし、だからこそ、この映画は胸を打つのだろう。
この映画の登場人物は、どこにでもいる「普通の人間」なのだ。同級生の少女に恋をするチャパも、子供を案ずるあまり厳しく叱りつける母親も、優しいが力の無い神父も。私の隣に座っていても不思議ではない、もっと言えば、この登場人物が自分であっても不思議ではないのだ。
その「普通の人達」の目の前に広がるのは、異常な景色だ。
家族団欒の夕食が銃撃戦で中断され、ガールフレンドのダンスの代わりに、友達の撲殺された死体を見なければならない。12歳の少年の目にうつる景色として「おかしい」のだ。異常だ。ありえない。
この映画には、勘弁願いたいほど死体が出てくるし、人が殺される悲惨なシーンも何度もでてくる。しかし、私はあまり可哀想だと言う感想を持たなかった。同情より、虚しさと疑問と違和感、そして怒りだ。
政府にも、もちろん反政府組織にも、彼らなりの主義主張があるだろう。理想とする社会があるだろう。「争う」ことは悪いと思わない。しかし、なぜ「殺し合い」を選ばなくてはいけないのか。他の方法で争えば良いのだ。
国民は財産ではないのか。それぞれの組織が作ろうとしている社会を支えるのは、普通の国民だ。その国民を徴兵し、兵士にしたて、そして殺す。あまりに馬鹿げている。
ただ、この映画で救いだったのは、チャパは政府軍の兵士を殺せる機会があったにも関わらず、銃を捨てたことだ。チャパの友達は、彼の隣で政府軍兵士により頭を銃でぶち抜かれた。別の友達は山の中に血だらけで吊るされた。しかし、同じくらいの年齢の少年兵が不慣れな手つきで機関銃をセットするのを見て、チャパはそっと立ち去るのだ。
殺せなかったのか、殺さなかったのか。きっと殺さなかったのだ。チャパは、これ以上血を見たくなかったのだろう。それが、普通の人間の感覚だ。敵だろうと味方だろうと、人が死ぬのを見たくないと思うこと、それが普通の感覚なのだ。
当たり前のことを言っているかもしれない。しかし「普通の感覚」を忘れてはいけない。敵でも味方でも、人が大量に死ぬのは異常なことなのだ。戦争だからあたりまえなどと言うことは無い。おかしいのだ。おかしいと感じる、それが「普通の感覚」だ。
と、「イノセント・ボイス」を見て、そんなことを考えた。
残酷なシーンの多い戦争映画は嫌いなのだが、この映画は面白いと思った。面白いと言う言葉が妥当だとは思わないが、、、他に浮かばないので、おもしろい。
役者の演技もすばらしいので、機会があれば是非。
他の3本も良い映画でした。いっぺんに書くと疲れるので、、、、今日はここまで。