出勤中の車内、
左隣に座っているオジサンが、スケッチブックに絵を描き始めた。
骸骨の絵だ。

その 細めのサインペンで乱雑に描かれた骸骨は
足を軽く組んで椅子に座り、首をちょっと曲げて膝辺りを見つめている。
本を読んでいるらしい。
次に描かれた骸骨は、ちょっと膝を開き気味に座り
疲れた表情で右上を見ている。落ち着きがない。

どうやら、向かいの座席に座っている人たちがモデルのようだ。

オジサンは、爪が気になる猫背の若い女性の骸骨にとりかかっていた。膝から下をクロスに絡ませて、なんとなく自信無さげな骸骨。

服はもちろん、髪も無く、肉も無く、色も無く
同じサイズに描かれる骸骨達なのだが、ちゃんと性別も分かり
人格さえ見えてくるように思う。
骸骨達の違いは、腕の置き方や首の角度、空洞に浮かぶ黒目の位地だけなのだ。
たったそれだけの事が、骸骨達の個性であり、表現であり、
また、覗き見する私からの骸骨への印象になるのである。

オジサンが、4個も目がある骸骨を描き始めた。
モデルは神経質そうな眼鏡をかけた青年だ。
その隣のダンディーな紳士はどう描かれるのか気になりつつ
私は大手町で電車を降りた。


またあのオジサンをみつけたら、向かいの座席に座ってみよう。