リオデジャネイロ「アフロ・ヘイギ」

 
GWに行った国際平和映画祭、4本目に「Favela Rising」という作品を観た。
 
【Favela Rising】

  題  名:Favela Rising
  監  督:Jeff Zimbalist and Matt Mochary
  製作会社:THINK Film HBO/Cinemax Documentary Films
  公  開:2005年
  受  賞:2005年ニューヨーク・ラテン映画祭
       最優秀ドキュメンタリー作品



ブラジルのリオデジャネイロにあるファベーラ(スラム)「ヴィガリオジェラウ」の状況と、そこで活動するローカルNGO「アフロ・ヘイギ」を追った作品だ。
 
事前に貰ったパンフレットには、ただ“ブラジルのファベーラの話し”としか紹介されていなかったため、映画が始まるまで気づかなかったのだが、この映画にでてくる「アフロヘイギ」、私も2000年と2001年、撮影をした経験がある団体だ。力強く、前向きな活動に、当時とても感銘を受けた。
 
 
リオデジャネイロを始めブラジルの都市部には、近代的な高層ビルが建ち並ぶ一方、ファベーラと呼ばれるスラムが多数存在する。農村部から職を求めてやってきた人々が、公の土地を不法占拠して出来たスラムだ。
 

 
こうした場所では、ファベーラ間での争いによる殺人や、麻薬がらみのトラブルは日常茶飯事である。状況が良くならない背景には、警察の腐敗も大きい。映画の冒頭では、現役の警察によると思われる大量殺人なども紹介されている。もちろん、犯人自身の手によって事件は『解決』するのだが。また、マフィアは警察の手引きで麻薬を入手、売りさばいているのだ。それは周知の事実だが、問題になりそうになるとマフィアは逮捕され、警察の関与は明るみに出ない。



ファベーラ「ヴィガリオジェラウ」は、危険なファベーラの中でも特に犯罪が多い場所だった。状況はよくなりつつあるらしいが、2000年に訪れた際も、ここの住民である案内人が目を配り、我々が犯罪に巻き込まれないよう注意をくれた。特に道に寄り集まっている男性は麻薬の取引をしている可能性が高く、不用意に近ずいたり、カメラを向け、現場が録画されてしまうと襲われる危険がある。
 
  

 
どこの国でも言えることだが、犯罪が身近にある環境で暮らす子供たちは、暴力や麻薬といった裏社会に入って行くケースが多い。「どうせまともな職につけない」といった諦めの気持ちと、暴力的なことに格好良さを感じて憧れをもつ間違った価値観が、犯罪グループに入る切っ掛けになる。
そして、その根底にあるのは、脱することのできない貧困だ。貧困が貧困をよび、暴力が暴力をよぶ。このサイクルが永遠に続くのだ。
 
 
    
 
  
そんな状況を憂いた元麻薬売人のアンダーソンが、「子供たちに将来と希望を持つ力を持たせよう」と作ったのが「アフロ・ヘイギ」という団体だ。

「アフロ・ヘイギ」では、若者や子供達に文化的な教育を行っている。主に活動の中心となっているのは、音楽と踊りのグループである。
 
 

 

 
これは子供達のグループ「アフロ・ラタ」による、廃材を使った演奏。ポリタンクやペンキ缶をたたいている。リズミカルで、とても上手い。
彼らの練習風景が映画でも紹介されていた。難しいリズムにも必死について行こうとする子供たち。音楽やダンスに彼らの興味と情熱を向けさせるのが「アフロ・ヘイギ」の狙いである。

  
 






4〜6歳のもっと小さな子供達のグループ。

このグループの名前を、ポルトガル語ではどう言うのか忘れてしまったのだが、日本語に訳すと「イカした奴ら」と言う意味らしい。イカしてる。
 
 
 

 
    
 
    
  
成長すると、このようなプロチームに入ることができる。
このチームも、もちろんNGO「アフロ・ヘイギ」の一部で、利益は活動資金にまわされる。子供達は、このプロチームを目指し、練習に励む。
 
 
 
  


こちらは、ヴィガリオジェラウ内、アフロ・ヘイギ本部の練習場。
彼らが踊っているのはカポエラカポエラは奴隷時代、体を鍛えることを禁じられた黒人たちが、手を鎖につながれた状態で、ダンスのように体を動かして鍛えたことから発達した、格闘技とダンスがミックスされたもの。



この「アフロ・ヘイギ」の目的は、子供達のサポートであり、ファベーラ社会の改善だ。
アンダーソンは「価値があるのは、音楽グループではない。このシステムだ。」と、活動の幅を広げている。今では、ヴィガリオジェラウ以外にも数ヶ所に支部が出来たらしい。
また、「音楽をやりたくない子もいて良い。髪をカットしたい子だっているんだ。」と、美術や、放送などの活動も行っている。もちろん「アフロ・ヘイギ」がステージに立つときの、ステージ美術や照明、音響機器の調整も彼ら自身の手によるもの。それがどれも、とてもレベルが高いのには、本当に驚かされる。
 
これだけのレベルの高さを保つからこそ、子供達は憧れを抱き、ついてくるのだ。子供だけではない、活動資金もついてくる。この資金により、子供達も活動も“自立”ができる。自立ができれば、思うような発言、活動が出来るようにもなる。
 
そして、“貧困”のサイクルが“自立”のサイクルへと変わって行くのだ。
 


(映像はすべてtabe撮影のもの。映画に使用されていたものではありません。)



追記  2008年4月

2008年4月5日より「ファヴェーラの丘」と言うタイトルで公開。
東京では恵比寿の「東京都写真美術館ホール」にて。